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千葉地方裁判所 昭和53年(ワ)398号 判決

原告兼参加被告兼訴訟承継人 金子耕一 外二名

被告兼参加被告兼反訴原告 天川保

主文

一  本訴について

(一)  本訴被告は、

1  本訴原告金子耕一、同金子愛子に対し別紙物件目録(一)記載の1の敷地内の同物件目録(二)記載の建物部分を収去して、同目録(一)記載の1の土地を明け渡せ

2  本訴原告金子静代に対し、別紙物件目録(一)記載の2の敷地内の同物件目録(二)記載の建物部分を収去して、同目録(一)記載の2の土地を明け渡せ。

(二)  本訴原告金子耕一、同金子愛子のその余の本訴請求を棄却する。

二  反訴について

反訴原告の反訴請求を棄却する。

三  当事者参加の申立について

当事者参加人の参加申立は、いずれもこれを棄却する。

四  訴訟費用中、本訴請求にかかる分は、本訴原告金子耕一、同金子愛子との関係においては、これを二等分し、その一を同原告らの負担とし、その余を本訴被告の負担とし、本訴原告金子静代との関係においては、これを本訴被告の負担とし、反訴請求にかかる分は、反訴原告の負担とし、当事者参加の申立にかかる分は、当事者参加人の負担とする。

事実

第一申立

一  本訴について

(一)  本訴原告兼参加被告金子耕一、同金子愛子(以下、単に「原告耕一、同愛子」という)

「一 本訴被告兼反訴原告兼参加被告天川保(以下単に被告という)は、原告耕一、同愛子に対し、別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という)を収去して同目録(一)記載1、2の土地(以下全体を「本件土地」といい右(一)の1、2記載の各土地をそれぞれ本件土地1、同2という)を明け渡せ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決および仮執行の宣言とを求める。

(二) 本訴原告兼反訴被告兼参加原告金子静代(以下単に「原告静代」という)

「一 被告は、原告静代に対し、本件建物のうち、本件土地2の敷地内の建物部分を収去して、本件土地2を明け渡せ。

二 訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決および仮執行の宣言とを求める。

(三) 被告の申立

「原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

二  反訴について

(一)  被告

「一 原告静代は被告に対し本件土地2について

(一)  (本来的反訴請求)

昭和三八年八月一日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二)  (予備的請求)

昭和三八年八月一日地上権設定契約を原因として、目的建物所有、地上権設定の範囲全部、存続期間および地代の定めのない地上権設定登記手続をせよ。

二 反訴費用は原告静代の負担とする。」

との判決を求める。

(二)  原告静代

「被告の反訴請求を、いずれも棄却する。

反訴費用は被告の負担とする。」

との判決を求める。

三  参加申立について

(一)  原告静代

「一 原告静代に対し

(一)  被告は、本件土地1敷地内の本件建物部分を収去して本件土地1を明け渡しかつ、本件土地1について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(二)  原告耕一、同愛子は、それぞれ本件土地1の持分(二分の一)について所有権移転登記手続をせよ。

二 訴訟費用は、原告耕一、同愛子および被告の負担とする。」

との判決を求める。

(二)  原告耕一、同愛子および被告(各自)

1 本案前の申立として

「一 原告静代の参加申立を却下する。

二 参加費用は原告静代の負担とする。」

との判決を求める。

2 本案に対する申立として

「一 原告静代の参加請求を、いずれも、これを棄却する。

二 参加費用は原告静代の負担とする。」

との判決を求める。

第二陳述した事実

一  本訴関係

(一)  本訴請求の原因

1 金子福太郎は、本件土地を所有している。

2 金子福太郎は、昭和四八年三月一九日死亡し、その子である金子圭一(承継前の原告)原告静代他四名がその権利義務を共同相続し、同年六月一五日共同相続人ら間で遺産分割の協議をし、金子圭一において本件土地1を、原告静代において本件土地2をそれぞれ相続をすることとし、各その所有権を取得した(同年六月一九日各所有権取得登記)。

3 本訴係属中、金子圭一は、昭和五二年一〇月一二日死亡し、その子である原告(金子)耕一、同愛子が、その権利義務を相続し、本件土地1の所有権を共同で取得するとともに、本訴を承継した。

4 被告は、本件建物を本件土地上に所有し、本件土地を占有している。

5 よつて、訴訟承継後の原告圭一、同愛子は、本件土地の所有権に基づき本件土地の敷地内の本件建物収去本件土地の明渡を、原告静代は本件土地2の所有権に基づき本件土地2の敷地内の本件建物収去本件土地2を明け渡せ。

(二)  本訴請求原因に対する答弁および抗弁

(答弁)

請求原因事実中、1は認める。2のうち、金子福太郎が原告ら主張の頃死亡したこと、金子圭一(承継前の原告)、原告静代が金子福太郎の子であること、原告ら主張の登記手続のされていることは認め、その余は否認する。3について、金子圭一が原告ら主張の頃死亡し、原告(金子)耕一、同愛子は金子圭一の子であつて、その権利義務を相続し、本訴を承継したことは認め、その余は否認する。4は認める。5は争う。

(抗弁)

一  贈与による所有権取得

(一)  被告は、昭和三八年頃金子福太郎からその所有にかかる本件土地を贈与され、その所有権を取得し、かつ、その頃、その引渡を受けた。

(二)  金子福太郎が本件土地を被告に贈与するに至つた経緯は次のとおりである。   1 (承継前の原告)金子圭一は、金子福太郎の子であつて、右圭一と被告の妹天川美代子は、昭和二七年三月三日婚姻をし、(同五一年二月九日協議離婚届出)その間に、原告耕一、同愛子の二人が出生した。

2 被告は、愛知県一宮市に居住している右圭一夫妻が千葉県市川市に戻りたがつているとして、右福太郎から懇願されたため、右圭一夫妻を市川市所在のレストランを右夫妻に経営させることを考え、右福太郎に相談したすえ、福太郎から本件土地の提供を受け、かつ、建物建築およびレストラン経営に必要な調度品一切を被告の費用でまかなうこととして本件土地上に本件建物を建築し、レストラン京乃葉を開業することとした。

3 レストラン京乃葉は、昭和三八年八月一日開業したが、福太郎は、これを大いに喜び、同日、これを祝つて本件土地の所有権を被告に贈与した。

(三)  したがつて、原告らは、本件土地の所有権を取得するいわれはなく、かつ、被告は自己の所有権に基づいて、本件土地上に本件建物を所有しているものである。

二  地上権の設定

かりにそうでないとしても

(一)  金子福太郎は、昭和三八年八月一日、被告に対し、前記のとおり、レストラン京乃葉の開業を祝して、本件土地に、建物所有を目的とし、存続期間および地代を定めない地上権の設定を約した。

(二)  被告は、右地上権に基づいて本件土地上に本件建物を所有し、これを適法に占有しているものである。

(抗弁に対する認否)

一  原告耕一、同愛子関係

認否せず

二  原告静代関係

抗弁一の(一)について、金子福太郎が本件土地を所有していたことは認め、その余を否認する。(二)について、1は認める。2について否認する。レストラン京乃葉は、金子圭一と被告との共同経営にかかるものである。3のうち、レストラン京乃葉が昭和三八年八月一日開業したことは認めるがその余は否認する。(三)は否認する。二について(一)および(二)とも否認する。

三  反訴関係

(一)  反訴請求の原因

1(1)  (本来的請求)金子福太郎は、昭和三八年八月、その所有にかかる本件土地を被告に対し贈与し、被告は、本件土地の所有権を取得した(詳しくは、本訴請求の抗弁参照)。

(2)  (予備的請求)

金子福太郎は、昭和三八年八月一日、被告に対し、レストラン京乃葉の開業を祝して本件土地に、建物所有を目的とし、存続期間および地代を定めない地上権の設定を約した(詳しくは本訴請求の抗弁二参照)。

2 ところが、本件土地の所有権移転登記手続(または地上権設定登記手続)を経ないうちに、金子福太郎は、昭和四八年三月一九日死亡し、その子である金子圭一と原告静代は、その権利義務を承継するとともに、本件土地を本件土地1および同2に分筆し、本件土地1を金子圭一が、本件土地2を原告静代が、それぞれ相続によつて所有権を取得したものとして、所有権移転登記手続を経た。

3 よつて、被告は、反訴として、原告静代に対し、本件土地2について、本来的に昭和三八年八月一日贈与を原因として所有権移転登記手続を、予備的に目的建物所有、存続期間および地代を定めない地上権設定登記手続を求める。

(二)  反訴請求原因に対する答弁

反訴請求原因1について、(1) のうち、金子福太郎が本件土地を所有していたことを認め、その余を否認する。同(2) について、否認する。2のうち、金子福太郎が昭和四八年三月一九日死亡したこと、金子圭一と原告静代が金子福太郎の子供であつて、本件土地を本件土地1および同2に分筆し、圭一および原告静代が相続による所有権移転登記手続を了したことは認め、その余は争う。3は争う。

四  当事者参加関係

(一)  参加申立の請求の原因(原告静代)

1 金子圭一は、昭和五二年七月その所有にかかる本件土地1を原告静代に対し、死因贈与をした。

2 死因贈与するに至つた事情は次のとおりである。

金子圭一は、妻(天川)美代子と昭和五一年二月九日離婚をし、その後は二人の子供(原告耕一、同愛子)ともわかれ、ただ一人で生活をし、相談相手となつたのは、姉の原告静代だけであつた。

そして、圭一は自分の死後本件土地1が右両名の子供を介して被告のものになることをおそれ、本訴提起後の昭和五二年七月頃原告静代に対し本件土地1の権利証などを交付し、これを死因贈与したものである。

3 金子圭一は、昭和五二年一〇月一二日死亡し、原告静代は、前記死因贈与により、同日本件土地1の所有権を取得した。

4 ところが、本件土地1について、昭和五二年一一月八日千葉地方法務局市川出張所受付第六四六四五号をもつて、相続を原因として原告耕一、同愛子あてに所有権移転登記がされ、同五三年五月六日同法務局同出張所受付第三九三五六号をもつて、真正な登記名義の回復を原因として、原告耕一、同愛子から被告あてに所有権移転登記手続がなされている。

5 よつて、原告静代は、死因贈与による取得した所有権に基づき、被告に対し、本件土地1敷地内の本件建物部分の収去および本件土地1の明渡並びに本件土地1の被告への所有権移転登記の抹消登記手続を求めるとともに、原告耕一、同愛子に対し本件土地1の所有権移転登記手続を求めるため、当事者参加の申立をする。

(二)  原告耕一、同愛子並びに被告の本案前の主張および答弁

(各人とも共通)

1 本案前の主張

本件参加の申立は、民事訴訟法第七一条による参加の申立であり、他人間に訴訟が係属していることを必要とするところ、本件参加申立を記載した書面が原告耕一、同愛子に送達されたのは、昭和五三年六月一五日であるところ、昭和五三年五月三〇日には、原告耕一、同愛子と被告との間の昭和五二年(ワ)第七六二号(本訴訟)事件も、同五三年(ワ)第三一八号(反訴)事件も、いずれも、取り下げられていて訴訟係属は消滅しているから本件参加の申立は不適法である。

2 答弁

参加申立の請求原因事実中、1は否認する。2のうち金子圭一と妻(天川)美代子と昭和五一年二月九日離婚したことは認め、その余は否認する。3について、金子圭一が昭和五二年一〇月一二日死亡したことは認め、その余は否認する。4は認める。5は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  本件参加申立の適否について

被告は、本件参加申立書が本訴訟の取下後に被告らに送達されたから、不適法であつて、却下を免れないと主張するから、この点について、判断する。

一件記録によると、本訴原告金子圭一訴訟承継人原告耕一、同愛子両名は、被告代理人の同意のある昭和五三年五月二九日付訴の取下書を同年五月三〇日当裁判所に提出したこと、原告静代は、原告耕一、同愛子および被告を相手方とする本件参加申立書(訴状)を昭和五三年五月二九日当裁判所に提出し右参加申立書(副本)は、原告耕一、同愛子両名に対しては同年六月二〇日被告には同年七月一日それぞれ送達されたことが認められる。 右によると、参加申立を裁判所になした時には本訴訟が係属していたものであるから、本件参加申立は適法である(かりに参加申立の効力はその申立書送達の時に生ずると解するとすれば本件参加申立は、本訴取下後、すなわち本訴訟の係属がなくなつたあとになされたものと解されることになるが、このような解釈は、裁判所の手による参加申立書の送達の遅速という当事者の関与しない事実によつて、参加申立の効力-訴訟上本訴当事者に対する重大な制約を課する効果を生ずる-を左右することになり、妥当でない結果を招く余地があり、したがつて、このような解釈を是認することはできない)。被告らのこの点の主張は、採りがたい。

なお、念のため付言するに、当事者参加の申立の効力が生じたあとに本訴原告が本訴を取り下げるには本訴被告の同意のみならず、参加人の同意をも必要と解すべきところ本件においては、本訴の取下には参加人の同意を欠くことは、一件記録上明らかであるから、前記原告耕一、同愛子両名のした本件訴の取下はその効力を生じないものであるというのほかない。

二  本訴請求の当否について

1  金子福太郎が本件土地を所有していること、同人が昭和四八年三月一九日死亡したこと、金子圭一(承継前の原告)および原告静代が福太郎の子供であること金子圭一が昭和五二年一〇月一二日死亡し、原告耕一、同愛子はその子であつて、圭一の権利義務を相続し圭一関係の本訴を承継したこと、被告が本件建物を本件土地上に所有し、本件土地を占有していることは、原告耕一、同愛子、原告静代および被告の全当事者間において争いがない。

2  その方式および趣旨により公務員が権限に基づいて作成したものと推定されしたがつて真正に成立したものと推定すべき甲第二一号証および同号証により真正に成立したものと認められる甲第四号証、成立に争いがない甲第一、二号証、丙第一号証によると、金子福太郎の死により、子である金子圭一、原告静代他四名が福太郎の権利義務を共同相続をし、昭和四八年六月一五日共同相続人ら間の遺産分割の協議により金子圭一において本件土地1を原告静代において本件土地2を相続することにし、各その所有権を取得し、同年六月一九日各所有権取得登記を経たことが認められる。

右によると、原告耕一、同愛子は他に別個の事由が主張されていない以上本件土地2の所有権を相続により取得することができないことは明らかであるから原告耕一、同愛子の本件土地2に関する本訴請求は、他に判断するまでもなく理由がない。

3  そこで被告の抗弁事由について検討する。

(1)  被告は、本件土地を福太郎から贈与を受けた旨を主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、被告本人の供述をもつてしても、これを認めることはできない。

もつとも被告本人の供述によると、金子福太郎は被告が、本件土地上に本件建物を建築して株式会社京乃葉の経営にかかるレストランの開業に当り、本件土地を提供して、その地上に目的家屋(レストラン)を建築することをいたく喜びかつ訴訟承継前の圭一が右レストラン経営に参加すべく愛知県一宮市から市川市に戻つて生活を営むことを嬉しがつていたことは認められるが、これをもつて被告本人に対し、福太郎が本件土地を贈与したものと認めることはできず他にこれを認めるに足りる証拠はなく、右抗弁は遂に認めがたい。

(2)  次に、被告は地上権設定契約の成立を主張するがこれを窺わせるに足る証拠はないから、この点の抗弁も理由がない。

(3)  以上のとおり被告の抗弁はいずれも採用しがたい。

4  以上説述したところによれば原告耕一、同愛子の本訴請求は本件土地2の関係において、その所有権を取得したことは認めがたいけれども、本件土地1については、その所有権を取得したことは明らかである。

したがつて、原告耕一、同愛子の本訴請求中本件土地1についての請求に理由があるからこれを正当として認容すべきであるが、本件土地2についての請求は、理由がないから、これを失当として棄却すべきである。

また、原告静代は、本件土地2について所有権を取得していることが明らかであるから同原告の本訴請求は理由があるとして、認容すべきである。

三  反訴請求の当否について

被告の反訴請求の理由のないことは、本訴請求の当否について-とくに抗弁の関係において-判断したとおりである。したがつて、被告の反訴請求はこれを棄却すべきである。 四 原告静代の参加請求の当否について

原告静代は本件土地1を金子圭一から死因贈与を受けた旨を主張し、その趣旨にそう記載のある甲第二一号証、第二三号証も一部あるけれども、にわかに信用しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠はない(本件においては、本件土地1の権利証、印鑑などが金子圭一から原告静代に交付されていたものであるが、このことからは、死因贈与の事実を推認することはできない。)。

したがつて、原告静代の本件参加申立は、理由がなく、これを棄却すべきである。

五  むすび

よつて、原告耕一、同愛子の本訴請求中、本件土地1上の本件建物部分の収去本件土地1の明渡を求める分は正当としてこれを認容するが、その余の請求はこれを棄却することとし、原告静代の本訴請求はこれを認容することとし、被告の反訴請求および原告静代の当事者参加の申立は、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言については事案にかんがみ、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 奈良次郎)

(別紙) 物件目録(一)・(二)〈省略〉

(別紙) 添付図〈省略〉

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